万物理論 (創元SF文庫)

万物理論 (創元SF文庫)

やっと読み終わった。
やっぱりイーガンは、長編が苦手なのだろう。短編5つくらいのアイディアが詰め込まれてはいるけれど、それらを無理やり継ぎ合わせたような感じ。個々のエピソードは興味深いのだけれど。特に、「無知カルト」と呼ばれるトンデモな人たちや、一口で言えば嘘をつく能力を司り、その欠陥が自閉症となって現れる架空の脳の部位「ラマント野」といったアイディアが面白かった。
タイトルの「万物理論」だけれど、それがもたらす意識の変革や宇宙観の変化は、人間原理が出てきた時点で先が読めてしまった。似たような話は、ベア『ブラッド・ミュージック』やハーネス『現実創造』などで経験済みなので、もうひとひねり欲しかった。
あと、この邦題は失敗だと思う。結局、謎の奇病「Distress」(これが原題)の原因が万物理論だったわけで、決してこの万物理論が核となる物語ではないのだし。原題どおりか、または『ステートレス』とでもしたほうがよかったのでは。
「ステートレス」といえば、このような楽観主義は、ツッコミどころ満載ではあるのだけれど、どこか微笑ましい。ハードSFにおけるある種のお約束とでも言おうか。