橋元淳一郎『時間はどこで生まれるのか』

時間はどこで生まれるのか (集英社新書)

時間はどこで生まれるのか (集英社新書)

テーマのわりにボリュームが少ないせいか、やや消化不良の感があるのは否めない。
この本の主張をかなり乱暴にまとめるなら、いわゆる「時間の流れ」が存在するのは、生命が生きようとする意思がエントロピーを減少させるからだという。この少ないページ数でひとつの時間論を打ち立てるというのはかなり難しいことだろうから、ここでは筆者がやむを得ず割愛したであろう主張も少なからずあるとは思う。それでも、この論旨には納得できない。エントロピー増大の法則による圧力が自由意思の発生を促し、そこに主観的な時間が生じるというのだが、むしろ自由意思の発生こそが客観的時間を生み出したのではないかと思える(けど、これはおれ自身がSF的な考え方に汚染されているからかもしれない)。
また、巻末の付録で述べられている、平行宇宙が存在しないという立場をとる理由(もし平行宇宙が存在するなら、「意思」が進化するための自然選択の圧力がなくなるから)にも同意できない。平行宇宙論が正しいとして、膨大な数が存在する平行宇宙の中には、生命が存在しないものもあるかもしれない。けれど、エントロピー増大の法則は確率的なものではなくて「法則」なのだから、すべての平行宇宙に対して等しい圧力が存在するのではないのか。生命とは、宇宙的には稀な現象ではあるのかもしれないけれど、そんなに重要な存在ではないんじゃないかと思う。
異論はあるものの内容的には特に不満ということはないのだけど、物足りなさを感じたのは確か。こういうテーマのものを新書で読むというのも善し悪しか。