ラノベを読む実験

確かBSマンガ夜話で岡田斗氏夫が言ってたと思うけど、今の子供はマンガは難しくてわからないので、小説を読むという。これはきっといわゆるラノベを指しているのだろうとそのときは思ったのだが、実際にひとつあからさまなラノベを読んでみようと思い立ち、読んだのがこれ。
表紙と背表紙とが満艦飾に輝き、この世のものとも思えない甘ったるくてお子様チックなタイトルがずらりと並ぶラノベ売り場で物色することからしてまず苦行ではあったのだが、一応、後腐れがないようにシリーズものではなく、かつあまり恥ずかしくないカバー絵のものをチョイス。本を開くといきなりCGっぽいカラー口絵が数枚ある。さらに本文中にもところどころ挿し絵が入っているのだが、電車で読んでいるときにはこれがものすごく恥ずかしい。意外にも見た目の活字の密度が濃いなあと思ったら、実はほとんどすべての漢字にルビが振られているからなのであった。
タイトルから想像するに「イヤボーン」の野郎版かと思われたが、まあ当たらずとも遠からず。ふとしたきっかけで透視能力を得た主人公の少年が、異常に鋭い聴力をもつ少女、また嗅覚が強い少女、さらには人語を解するテレパシー猫と知りあい、彼らと同じような能力を持つ野心的な者たちのグループとの争いに巻き込まれていく。主人公たちも敵グループの者たちもみな、同じ集落の出身者なのだが、その集落では第二次大戦中にある疫病が流行したという。すわ藻池村事件か!?などとワクワクしてしまったが、当然そのようなシリアスな展開になるはずもなく、その疫病の原因であるウィルスが世代を経た後に彼らに特殊能力を与えることになったという。高校生が巻き込まれるわりには結構血なまぐさい派手めな闘いの末に、主人公達は敵グループを倒してめでたしめでたし。
主人公の相棒の少女がいかにもツンデレなのでいつデレになるかと期待していたら、最後の最後に、主人公から一人で淋しいのかと問われて「なっ、何言ってんのよ。そっ、そんなわけないじゃない」という王道の科白で返した。これはラノベ的にはやはりお約束なのでしょーか?
ストーリーはとくに目新しいものもなく、どこかで読んだようなプロットを集めてみましたという感じ。とはいえ、想像していた以上に楽しめたのは事実。読む前のバイアスが低かったということもあるけど。ただ、思いのほか文章がしっかりしていた。某小松左京賞受賞作に比べたら、よほどまともだし面白い。当たり前だけど、ラノベにも面白いものもあればそうでないものもあると。だからこれからラノベを片っ端から読むぞ、という気にはならないが。
どこかで読んだ本書の感想のなかに、冒頭で時間軸が前後するのでわかりづらい、というものがあった。別にどうということはないありきたりなカットバックの手法なのだけど、そっか、この手の小説の読者層はこういう小説技法を知らないんだ。この程度の小説の読み方なんて、学校の授業で教えてくれるはず。もしかすると、彼らは学校で教わることをある種のフィクションととらえていて、現実の世界と関連づけるということをしていないのでは、なんていうことを思った。
ところで、ラノベについて調べているときに、"ライトノベル第一号は平井和正「超革命的中学生集団」?"という文章を見つけた(『ライトノベル☆めった斬り!』)。『超革中』はおれが中学生のときに、放課後に買って夕食までの1時間弱の間に読み終わってしまったという早読みの記録を持つ作品なのだが、なるほどこれは分かりやすい喩えだ。