堀晃『バビロニア・ウェーブ』

バビロニア・ウェーブ

バビロニア・ウェーブ

久しぶりに?も!もいっさい出てこない、正しい日本語で書かれた小説を読んだような気がする。
とはいっても、作者が若いときの作品だからか、文章はあまり良くない。冗長な部分もあるし、構成も今ひとつ。雑誌で連載していたせいか、繰り返し同じような発言や説明が出てきたりもする。
だがこの作者に限っては、数少ない日本のハードSF作家だし、デビュー当時から読んでいたこともあって、あまり気にならない。はっきりいって、えこひいきしてるわけだが。
太陽系を貫くレーザー光束であるバビロニア・ウェーブの謎も途中でなんとなくわかってしまうが、それにしてもこのスケールの大きさはどうだ。加藤直之によるイラストつきの特別コラムがまたよくて、「直径5kmの反射鏡」のイラストを見たあとで改めてその周囲の構造物などを頭の中に思い描いてみると、さらに驚かされる。
日本SF史上稀に見る地味で寡黙な主人公だが、宇宙の辺境にあって孤独を感じるどころか、彼は自ら進んで太陽系からどんどん遠ざかる探求の道を選ぶ。三人称で語られていることに加えて、あえて言及することが避けられているようだが、この主人公のポスト・ヒューマン的な存在こそが、SF的だと思う。
読み終わって、なんとなくグレッグ・イーガンの作品(正確には、『ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)』の解説で読んだ、刊行予定の長編のあらすじ)を連想した。