アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』

ゴーレム 100 (未来の文学)

ゴーレム 100 (未来の文学)

噂にたがわず、すごい本。
虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫SF)』以上のタイポグラフィやイラスト、ロールシャッハテストまで出てきて、一見して普通の小説ではないことはわかるけど、それらのグラフィカルな要素を差し引いても、異常なほどの密度と面白さ。会話文が主体なのでスピード感があるのと、登場人物が多いし忘れたころに重要な役割でまた出てくる人物もいたりするので、根性を入れてほぼ一気読み。
22世紀のスラム化した都市では極端な水不足なので悪臭がひどく、そのせいで香水産業が隆盛しているとか、有閑マダム8人組が遊びでやっていた黒魔術でたまたま本物の悪魔を召喚してしまったりとか、バカバカしい設定が素晴らしい。その黒魔術の儀式の詳細や、「精神工学」や「精神感応医」といった用語も、ベスターならでは。
疾走感あふれる文体と雑多なアイデアでもって、軽快に、時には強引に物語が進む。後半になってから、唐突に思いついたように新たな造語が頻出するようになったりもしてやや戸惑うが、そんな細かいことは気にならないというか、気にさせないエネルギー。話はどんどん猥雑にカオス的になっていき、最後には人類進化のひとつの方向性を示すという、実は壮大な物語でもある。
これを訳した翻訳者もすごいなあと思ったら、キャシー・アッカーの『血みどろ臓物ハイスクール』を訳した人だった。納得。