リチャード・モーガン『ブロークン・エンジェル』

ブロークン・エンジェル 上・下巻 2冊セット

ブロークン・エンジェル 上・下巻 2冊セット

前作『オルタード・カーボン』はなかなか良かったのだが、今作はちょっとがっかり。
前作はどちらかというと探偵小説風で、SF方面にはあまり重心が置かれていなかった。だから火星人の遺跡なんていうネタが出てきても本筋には全然関係なかったわけだが、今作ではその遺跡を探検するというので期待していたのに。肝心の遺跡が出てくるまでが長くて話がダレまくりだし、ご都合主義的な展開が多くて白けてしまった。
その遺跡というのは実は恒星の重力圏の外に遺棄された火星人の宇宙船に入るためのゲートなのだが、まあなんやかやあって宇宙船にたどり着いても、その描写がまるでガーギーギーガーの絵をそのまんま文章で説明しているような感じ。今はもう滅亡した(かどうかははっきり示されていないが)という火星人のミイラの描写も陳腐。
前作では強面でバリバリのハードボイルドだった主人公も、今作では微笑んだりおちゃらけてみたりで、まるで別人。人を殺しまくるところは変わってないが。何かというと「エンヴォイ(主人公がかつて属していた特殊部隊)の特殊技能」という便利なアイテムでもって危機を切り抜けたりしてしまうのも、かなり安易。
とはいえ、そういう枝葉の欠点を度外視すれば、メインのストーリーはそう悪くないし、たまにすごく良いプロットも出てくる。人間の心が保存された「スタック」を売り買いする場面があり、このスタックは親指と人さし指とでつまめるほどの大きさなのだが、売買の単位は目方だという。しかもそのスタックを業者たちがスコップで掬って買っていくのだから、大量殺戮シーンよりもよほどショッキングだった。
全体のトーンが、ハードボイルドか冒険小説か、どちらかに統一されていれば、もっと面白くなったんじゃないのかな。