ブライアン・w・オールディス『地球の長い午後』

地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)

地球の長い午後 (ハヤカワ文庫 SF 224)

文庫の初版発行は1977年。意外と新しい…こともないか。
月の引力の影響で地球の自転が遅くなり、常に同じ面を太陽に向けるようになってしまった遠い未来。温暖な気候は、植物を地球の支配的な生物にまで進化させる。一方、退化した人類や他の動物たちは、植物の脅威におびえながらこそこそと生きている。
このように高度に進化して巨大化した植物が、月までその生活圏を広げているなんて、ものすごい想像力だ。さらに、物語の終盤では、人類の数十世代のうちに太陽がノヴァ化することが予言されるのだが、これはつまり数十億年後の超遠未来が舞台であるということだ。現代SFに慣れてしまうと、種としての人類がそんなに長命なはずがないだろう、なんて醒めたことを考えてしまいがちだが、そんな瑣末なことを気にさせない圧倒的なエネルギーがある。
こうして、太陽系はいずれ終焉を迎えるが、地球の生命はある種の流れにのって他の恒星系に運ばれるという。この壮大なヴィジョンが提示される中で、主人公は、あくまでも人間として地球にとどまり、子孫を残していくことを決意する。このようなヒューマニズムのありようが描けるというのは、やはりSFならではだろう。