橋本忍『幻の湖』
- 作者: 橋本忍
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1982/05
- メディア: 文庫
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主人公が、シロを殺した犯人は笛の男じゃないかと疑ったり、銀行員と婚約するくだりなどは、どうしても納得できない。やっぱりこの作者はちょっとヘンだ。
笛の男といえば、映画では宇宙パルサーの研究をしていることになっていたが、この小説ではさらにエスカレートしている。反電子に満たされた星雲とか、人間の思念の素粒子「精神子」だとか、もうなにがなんだか。無粋を承知でつっこむと、静止軌道は赤道の直上でなければならないので、琵琶湖の真上に物体が45億年もとどまるということはありえない。
登場人物が驚いたり感動したりするときには、同じ科白を繰り返して疑問符や感嘆符を多用するというヒジョーに斬新な手法が用いられるわけだが(例:「作曲家??……作曲家の日夏圭介!?」)、これは主人公役の南條玲子の演技そのもの。橋本忍がそういう演技指導をしたのか、それとも女優の演技をそのまま文章で表現したのか。いずれにしろ、こういうベタな表現は映画と同じだ。
最後のクライマックスは、映画のようにグサッ、ブシュー、ズドドドド、というわけにはいかず、小説ならではの描写を期待していたのにちょっと残念。
ところで、自宅でこれのDVDを観賞したのだが、この時代のものにしては珍しく音声が4チャンネルなので、マルチチャンネルのシステムで聴くと音響が素晴らしい。芥川也寸志の音楽はダテじゃなかった。