山本直樹『レッド』2

レッド(2) (KCデラックス)

レッド(2) (KCデラックス)

1巻に比べると話の進み方が遅くなり、そのぶん密度が濃くなっている。
巻末の、押井守山本直樹の対談が面白い。赤軍派が高校生を組織に入れるときに、万引きをさせるのだという。暴走族の入会儀式と一緒だそうで、社会との絆を断ち切らせてアウトローとしての自覚を持たせるということなのだろう。そういう人達が起こした革命が仮に成功したとしても、民衆がついてくるはずがないわけで、この対談でも述べられているように「スターリンみたいになるに決まっている」。と、いうようなことが予め想像できない人たちからなる組織だったからこそ一連の事件が起きたわけで、想像できた人たちは次第に醒めてそういう活動から遠ざかっていったのだろう。
2ちゃんねる」にも言及していて、(そこで発せられる言葉が匿名だからという文脈において)「責任のない言葉は言葉じゃない」「人間性がどこまで堕落できるかという陳列にすぎない」と言っているが、同意である。けれども現在では、公共の場において自分以外の人間は概ね匿名の第三者であり、自分自身をも匿名な人間の集団に埋没させる感じ方も可能であって、したがって「無責任」や「堕落」は日常のどこにでもあり、とりたてて2ちゃんねるやネットだけのことじゃあないと思う。また、「2ちゃんねる的なものが、世論だというわけでは決してない」のはその通りだけど、では何なのだと言われれば、あれは一種のフィクションなんじゃないかと思っている(『電車男』的な意味ではなく)。限りなくゼロに近いS/N比と、個性が排除されて平均化された文体。所詮人間の営為など、多くの物理法則と同じで結局はエネルギー順位の最も低いところに落ち着くという必然に至る過程にすぎない、というテーマのフィクション。
ところで、どうしてもよくわからないところが一箇所ある。後半、このマンガでは珍しい美人キャラの月山が着ている服の胸の部分に、最初は「populer」というロゴらしきものが描かれているのだが、これが次のページでは「POPULAR」と正しいつづりになったかと思えば、「POPULER」になったり、大文字と小文字が混在したりもするのだ。これはミスにしては単純すぎるので、何か意味があるのかとも勘繰ってしまうのだが、作者の他の多くの作品とは異なり、この『レッド』は幻想的な描写はなく、あくまでもリアルに徹していた。まさかけっこう仮面みたいに月山さんが何人もいたというオチではあるまいが、とにかく腑に落ちない。