楳図かずお『漂流教室』

漂流教室 1 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 1 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 2 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 2 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 3 (ビッグコミックススペシャル)

漂流教室 3 (ビッグコミックススペシャル)

サンデーコミックスも数年前にコンビニで売ってたやつも持っているしもう何度も読んでいるが、これは完全版ということなので買ってみた。
181枚の原稿が復活、とあるけれど、どれが復活したものなのかまでは調べていない。セリフも連載時のものとのことだが、「出来うる限り」とあるので完全に元のものではないのだろう。とはいえ、扉絵が再現されていたりタイトル文字が絵にかかっていなかったりするのはうれしい。
未来パートと現在パートとで紙質が少し違っていて、これはこの作品ならではの演出だろう。ただ、装丁は祖父江慎なんだけど、ちょっと凝りすぎじゃないかなと思うところもある。目次のページはたぶん翔がつけていたノートをイメージしたものだと思うが、ページの端が折れた風になっているので、目次の一部が欠けて前のページに回り込んでしまっている。小口の部分も絵になっていて、まあこれは読者サービスなのだろうけど、一生モノとしての完全版という意味では、もっとガチガチに地味な装丁でも良かったと思う。
で、個人的にこの完全版における最大の収穫はというと、3巻の最後にある半田健人の談なのであった。この作品が描かれた当時は公害といえばスモッグや汚染などの目に見えるものだったけど、現代では環境破壊や地球温暖化(これは実際のところ何が真実なのかよくわからないのだが)など直接目には見えないゆえにより危険であるなど、示唆的なことを語っている。70年代の雰囲気がよく出ているとか、これはリップサービスかもしれないが、ビル好きになったのは翔と先生が争った場所のモデルになったホテルに感動したためだとか。最近はタモリ倶楽部などでよく見かけるが、こいつは本物だ。
あと、今回初めて思ったことがひとつある。最後のほうで「ぼくたちは選ばれた人間なんだ」というくだりがあるのだが、これは少年読者にとってはとても力強い、未来への希望をもたらしてくれるセリフではある。しかしかなり意地悪な見方をすれば、被支配者の優越感をくすぐる体制側の欺瞞であるということも言えるんじゃなかろうか。翔が指導者としての道を歩むであろうことは明らかだが、すでに権力者・支配者としての萌芽もうかがえるという暗示。作者が本当にそのようなことを意図しているとは思わないが、うがった見方もできる、ということで。