アンドリュー・パーカー『眼の誕生』

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

途中で何度も中断したので、読み終わるのに結局1年くらいかかってしまった。
カンブリア爆発の原因を探るのがテーマだが、すでに題名で結論がネタばれされているともいえる。だが、そこに至るまでの外堀である周辺知識を実に丁寧に解説して埋めていくという構成なので、思いの外密度は濃い。
この本では、まず「カンブリア爆発」そのものについての説明が、他の本によるものとは論調がやや異なっている。カンブリア爆発とは、現生する動物門が全て出そろったことを指すのではなく、すでに存在していたそれらの動物門が複雑な外部形態を獲得したことを指すという。先カンブリア紀の動物の体制は、おおむね単純で蠕虫のような形状だったというのだ。まあ、ほ乳類であっても体長が2mmしかなくてまるでイトミミズのようにしか見えないコビトハナアルキ(Remanonasus)の例があるわけで*1、納得はできる。
前述の周辺知識については、蝶の羽根が紫外線ではどのように見えるかとか、構造色などについての解説が、カラー口絵を用いてとても詳しく説明されている。化石や生痕化石の立体構造の解析技術が向上したとのことだが、恐竜の足跡からどのように脚を動かして歩いていたかということまでわかるらしい。ウィワクシアも構造色を持っていたようで、確かに形状は派手だけれども色はいつも地味なグレーか黒でしか表現されていない再現図しか見たことはなかったので、口絵にある虹色に光るウィワクシアには驚いた。
初期の三葉虫が最初に視覚を獲得し、光が淘汰圧となったことにより、捕食-被食の関係もよりダイナミックに変化した。食われる側は身を守るために、食う側は攻撃や食餌行動のために硬組織を発達させ、いずれの動物門に属するものも体制がより複雑になった……。理屈は通っていると思う。
エディアカラ動物群の説明もあるし、いろいろな動物種の眼の構造についての詳細な解説もあるし、総じて良い本だった。最後のほうで、それではなぜカンブリア紀という特定の時代にそのような爆発的な変化が起きたのかという考察があって、天文学と絡めた説が出てくる。ちょっと面喰らう向きもあるかもしれないけれども、あながち荒唐無稽と一蹴することはできないと思う。実際、過去何度かあった生物の大量絶滅と、銀河系と太陽系の相対運動とを関連付ける説もあったはず。地球表面の環境の変化については、アンドルー・H・ノール『生命 最初の30億年―地球に刻まれた進化の足跡』が、大気や海水の化学的な組成がいかにダイナミックに変化しうるかということについて述べている。

*1:ほんのジョークです。