杉浦茂『イエローマン』

立ち読みしたら全部未読のものだったので買ってみた。
晩年に近いころに描かれた作品を集めたもので、遺作も収録されている。少年誌への掲載という縛りがなくなったためか、映画や絵画への傾倒がはっきりと表れている。また、下ネタや俗な表現が多いのは意外だが、いやらしくない。
圧巻なのは「ミフネ」というやや長めの短編。江戸在住の漫画家(という設定がそもそもすごいが)ミフネのところに異星の科学者が訪れ、四次元に入り込むことによって、思い描いたイメージどおりの世界に行く方法を授ける。ミフネは意のままに異世界を行き来して冒険と活劇を繰り広げるという、これはもうワイドスクリーン・バロックスペースオペラの東洋的混交。活劇に力点が置かれるあまりに、数ページにわたってミフネが出てこなくなることもある。多くの異世界を放浪した後にミフネは江戸のわが家に戻るのだが、そこで彼は七輪で焼いた小魚をおかずにご飯を食べながら、「さあ傑作を描くぞお!」。この、宇宙規模と町民規模との間を自由に行き来するスケール感と迸る想像力がたまらない。