よしながふみ『大奥』5

大奥 第5巻 (ジェッツコミックス)

大奥 第5巻 (ジェッツコミックス)

いつものように、1巻から4巻までを復習してから読んだ。
相変わらず面白い。もう綱吉の時代なのだが、2巻のエピソードを生類憐れみの令につなげるところなど、本当に上手い。ちょっと調べてみたら、生類憐れみの令が桂昌院の勧めによるものであるという俗説があるようだ。
そして忠臣蔵のエピソードでは、喧嘩両成敗という武家社会の慣例が、民衆の世論とは乖離していく様が描かれている。「判官びいき」という言葉は作中にも出てくるが、男女の非対称な人口比が安定したところで、男性原理的な諸相がスポイルされ始めているということなのかもしれない。けれどもこれは歴史改変フィクションという体裁をとりながらも、武断政治から文治政治への移行や安穏な元禄時代といった史実と合致するわけで、虚実がないまぜになりながらも互いを照らし合わせる合わせ鏡のような効果を狙っているのかもしれない。と、歴史に疎い私が申しております。
4巻で表舞台からすっかり退いたと思われた有功が、ほんの数ページとはいえ老いた姿で再登場したのはちょっと驚いた。やはりすっかり老いさらばえた桂昌院と再会するのだが、このエピソードは、江戸幕府の弱体化というマクロな事象を個々人の老いというミクロな事象でもって暗喩しているのかもしれない。ただし、この巻の終盤ではまだ少女のときの吉宗がセンセーショナルな登場をするので、変革の時代の到来を予感させる終り方になっているのが救い。そして1巻の時代に追いつくであろう次巻が待ち遠しい。