ガイ・バート『ソフィー』

ソフィー (創元推理文庫)

ソフィー (創元推理文庫)

何気なく手に取り、あらすじに魅かれて買ってみたら、大当たり。
ソフィーとマシューは、イギリスの田舎町に住む姉弟。マシューのモノローグによる子供時代のパートと、2人の対話による現在進行形のパートとが交互に現われる。
2人の子供時代はいかにも田舎暮らしの子供の生活という感じで、実際自分自身がそういう田舎に住んでいたものだから、生き生きとした情景が目に浮かぶ。この子供時代のパートは、マシューの年齢で5歳から11歳までの間。カエルの卵、ヒイラギの木の枝の中に作ったテント、貝の化石、飛行機の模型……と、絵に描いたような幸福な子供時代。
一方現代のパートにおいては、ソフィーはマシューに拘禁されており、その子供時代に端を発する何事かについて半ば詰問に近いかたちで対話が行われている。同じ時代について語っているはずなのに異様な対照を露呈しており、冒頭から不穏な空気が流れている。どうやら、幸福な子供時代、などと呑気に構えている雰囲気ではないようだ。ということで、話が進むにつれどんどん緊張感が増して行く。
姉のソフィーは非常に聡明な子供で、自らの知能の高さを自覚しているが故に、周囲からはそれを隠そうとしている。子供時代のマシューは、たまに悪夢にうなされたり喘息の発作に見舞われたりする以外は、本当に幸福な子供らしい子供。だが、どうもこの2人は、血のつながった姉弟にしては仲が良すぎるように思える。2人にはちゃんと母親がいるが、ほとんど育児放棄に近い状態だ。そのせいかこの2人は寝るとき以外は常に一緒にいるようだし、ソフィーが庇護者的な態度でマシューに接することもある。だが、それだけには留まらない、むしろ背徳的な雰囲気を仄めかすような関係が2人の間にはあるようだ。ただし、前述のように少なくともマシューはまっとうな子供であるが、年齢に相応しくないずば抜けた聡明さもあって、ソフィーのほうにこそ危険な香りを感じるのだ。だからなおさら子供時代と現代パートの対比が際立つ。
話が進むにつれ、ソフィーが自分にしかわからない暗号を使って日記を書いていたり、2人の弟が産まれるもののすぐ急死してしまったり、空き家を改造して秘密基地を作って他の不良少年達と交流したりと、子供時代も少しずつ不穏な様相を呈して行く。
この子供時代と現代パートとが一点に交わる瞬間、そこにこの小説の核があるのだろうと予想して読んで行くが、なかなか本質が明らかにならない。このもどかしさがまた被虐的な快感を与えてくれ、こんな読書体験は初めてだ。読み終わってみると、あらゆるディテールに意味があったことに気づかされる。しかもこの「気づき」こそは、作中のマシューがおそらく感じたであろう感情と同種のものではないのか。そして気がつけば、無意識のうちにこの小説をまた最初から読み返しているのだ。
あまり書いてしまうとネタバレになってしまいそうなのでこのへんにしておくが、何の予備知識もなく、たまたま手に取った本が面白いと本当に嬉しい。こういうことは滅多にないよ。