山岸凉子スペシャルセレクションII 『汐の声』

汐の声 (山岸凉子スペシャルセレクション)

汐の声 (山岸凉子スペシャルセレクション)

続けて2巻も。
汐の声」は本当に何度読んでも怖い。学生のとき、ウチでこの漫画を読んでビビりまくった友人が、帰りの夜道で車を運転しているところに飛びだしてきた動物を轢きそうになり、急ハンドルを切ったために大スピンしてあやうく大事故になるところだったそうな。
作品自体はどれもまったく古びてはいないが、細部にはやはり時代を感じる。「蛭子」で主人公がサークル仲間と一緒に遊びに行った万博はつくばの科学万博だし、「鬼」が描かれたのは地下鉄サリン事件の直後だから、関連する話題が出てくる。登場人物の一人「中沢純司」のネーミングの元ネタは、中沢新一だろう。
しかしこの「鬼」のあたりから、恐怖や人間心理の暗部だけではなく、その先にある「救い」が窺えるようになった気がする。1巻に入っていた「白眼子」もそう。
心霊ホラー漫画の頂点ともいえる「汐の声」や現代っ子の孤独を描いた「天鳥船」「八百比丘尼」と、異形の存在である「蛭子」そして「鬼」の間に挟まれているのは、短いながらも印象的な「笛吹き童子」で、特にその第2話が非常に良いアクセントになっている。今のところ、このシリーズの構成は本当に素晴らしい。