バーナード・ベケット『創世の島』

創世の島

創世の島

「アカデミー」への入学を志望する少女が試験官たちに面接を受けるシーンがほとんどで、とても地味ではある。けれど、その面接の過程でこの物語の世界観が徐々に明らかになっていくという構成が巧みだ。
少女の名前を始めとして、間接的に言及されるキャラクターの名前の多くががギリシア哲学者のもので、さらに面接のときに行われる問答はソクラテス流の対話を思わせるという、重層的な構造をもっている。また、その面接のテーマともなっているある歴史的事件の当事者二人も、そのような問答を行っていたということが描写される。ただし、こちらの問答は、テューリング・テストをメインテーマとしてポパーやサール的な科学哲学の議論にも踏み込んでいて、語り口の軽妙さとは裏腹に、なかなか読みごたえがある。
かなり早い段階で、ああこれは実は××でしたというオチなのだろうと想像できてしまうのだけど、実はもうひとひねりあった。おお、これは上手い。「もう一度最初から読みたくなる」という感想も頷ける。
ところで、読み終わってからカバーのイラストを見ると、これは間違っているんじゃないかと一瞬思ってしまうのだけど、実はこれでいいのだ。色々な意味で良く出来ている本。