高橋昌一郎『理性の限界』

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 (講談社現代新書)

これは良い本だ。
ハイゼンベルク不確定性原理ゲーデル不完全性定理とで、自然科学に関する限界を示しているのだろうということは、読む前から想像ができる。そこでさらにそれらの理論を橋渡しするような、通底する概念についての示唆なりが得られればと思って読んでみたのだけど、それにはとどまらず、「選択」すること、つまり民主主義についても限界があるということを知るという大きな収穫があった(アロウの不可能性定理)。まあこれも論理学に帰着する概念ではあるのだけれど。
仮に全き理性というものが実在論的な意味で存在するならば、にもかかわらず人間の知性は必ず「限界」に行き当たるというのは、それはその理性についての考察を他ならぬ人間が行っているからではないのか、なんて思ったりして。プラトン主義的な理性が、人間の知性の存在とは独立して実在するなら、それらの「限界」について憂うのはその主体の問題でしかない。また同時に「限界」の存在こそがそのような知性の成立を可能にしているという、相補的な関係にあるのじゃないか。あるいは、人間機械論をゲーデルペンローズとは異なる角度から否定するとしたら、人間の理性というシステムは無矛盾ではない、とも言えるかも。
同じ著者による『ゲーデルの哲学』も面白かったし、『知性の限界』も読んでみよう。