1984

1984 [DVD]

1984 [DVD]

なんかこのビッグ・ブラザーの顔は、泉昌之のマンガに出てきそう。
しかしこの映画は、原作の重苦しい雰囲気が台無しだなあ。主人公ウィンストン・スミスもイメージと全然違う。病弱で抑圧されたインテリという原作のキャラクターとは正反対で、むしろマッチョでわかりやすい反逆者。そういう意味でも、ジョン・ハートが主役を務め、Eurythmicsが音楽をやった1984年の『1984』のほうがいい。
この映画では、最後にウィンストンはジュリアと再会するものの、テレスクリーンで党による戦果が発表されているわずかの間にジュリアは姿を消してしまう。そしてウィンストンは「ビッグ・ブラザー万歳」を連呼するようになるのだが、これではジュリアとの愛を失った代償として、またはショックのあまり錯乱したが故に党を愛するようになったように受け取れてしまう。さんざん拷問された揚げ句に指が五本に見えるようになったにもかかわらず、ジュリアを裏切ることを拒否したために101号室に連れて行かれ、そこで党を心から愛するようになるという原作の結末からは、意図的に変えられているように感じるのだ。党がでっち上げた地下組織のリーダーの名前もゴールドスタインではなく、この変更は意味不明。
この映画が作られたのは1956年だから冷戦まっただ中なわけで、西側としては、全体主義に屈服するというディストピアな結末はいかん、という政治的な配慮あるいは圧力があったのでは、と勘ぐらざるを得ない。
で、このDVDに収録されている作品解説を見てみたら、

ちなみにアメリカ公開版では、ウィンストンとジュリアが拷問に最後まで屈せず"ビッグ・ブラザー打倒"を叫んで死ぬという、いかにもアメリカ人好みのラストに改変されたが、これに不満を持った原作者オーウェル(50年死去)の遺族が公開差し止めを求めたという。

とある。なんとまあ、いかにも真理省がやりそうな改竄もとい修正を、自由世界の盟主たるアメリカの国民に対して実際に行ったわけだ。この事実とセットでならば、この映画はまた別な価値を持つことになる。