ここがウィネトカなら、きみはジュディ

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー)

テッド・チャン「商人と錬金術師の門」はS-Fマガジンで読んでいたのでどうしようかなあと思っていた。だが実際に手に取って目次を見てみると、他にもジョージ・アレック・エフィンジャーイアン・ワトスンクリストファー・プリーストなど好みの作家に加えて、名前も聞いたことのない作家がちらほら。興味を惹かれたので読んでみた。
イアン・ワトスンは枯れないなあ。競作だけど「彼らの生涯の最愛の時」は、ある意味ロマンチストが描く理想の恋愛といえるかもしれない。ボブ・ショウ「去りにし日々の光」は初めて読むスロー・ガラスものだが、このスロー・ガラスに関してふと疑問に思ったことがオチとして使われていて、合点がいった。デイヴィッド・I・マッスンなんてちらりとも名前を聞いたこともないが、「旅人の憩い」はなんとなくアンナ・カヴァンの『氷』を連想させた。
エフィンジャーは、ブーダイーンシリーズのハードボイルド風の印象が強く残っていたけど、ここに収録されている「時の鳥」は、ユーモアたっぷりで面白かった。で、これを読んで思い出したのだけど、確か学研の「学習」では半年に一度ジュヴナイルを集めた増刊を出していて、その中にこんなSF小説があった。

主人公の少年はタイムマシンで家族と一緒に中生代への冒険旅行へと旅立つ。恐竜に襲われかけたり、狩で捕らえた恐竜(翼竜だったか?)の肉を夕食にしたりといった冒険の末、無事に現代へと戻ってくる。だがこれは実はタイムトラベルではなく、出来あいのシナリオを記憶に植え付けるという一種のエンターテインメントで、少年はそのことを知っているのだが、この「冒険」をプレゼントしてくれた両親に感謝して真実には触れずにいる。

というもの。
たぶん翻訳ものだったと思うが、もはや原作が誰かも覚えていない。だけど、フィクションの面白さがわかりかけてきていた小学生の当時、このようなどんでん返しと、少年の大人びた態度とが、強く印象に残っている。
と、横道に逸れてしまったが、この短編集に収録されている短編はどれも素晴らしい。ロマンチックあり、奇想あり、ユーモアあり。構成もよく練られているし、比較的短い作品ばかりなので、読みやすかった。