ジェイムズ・ボーセニュー『キリストのクローン/新生』

キリストのクローン/新生 上 (創元推理文庫)

キリストのクローン/新生 上 (創元推理文庫)

キリストのクローン/新生 下 (創元推理文庫)

キリストのクローン/新生 下 (創元推理文庫)

キリスト伝奇モノが好きなワタシ。しかしこの小説は少し毛色が違っていた。
聖骸布の調査団にたまたまもぐりこむことができた主人公。その調査の数年後、炭素14による年代測定法の技術が向上したことにより、この布が製造されたのは13世紀から14世紀の間であることが明らかになり、したがって当然キリストが死んだ年代とは合致しない。このあたりは、現実に行われた調査と同じだ。
だが作中では、この聖骸布は本物だという。しかもその布には生きた細胞が付着していた。ここで、主人公とともに聖骸布を調査した科学者は、パンスペルミア説の拡大バージョンともいうべき理論を展開する。それによれば、地球は異星人によって播種された惑星で、キリストこそはその異星人であり、実際に復活をとげその後数百年を生きた。だから聖骸布が製造された年代が紀元後数十年でなくても矛盾は生じないわけだ。そしてこの科学者は、異星人たるキリストの細胞が数百年もの間生き続けるほどの生命力を持っていることから、難病の治療や不老不死の研究に応用しようとする。そして当然、この細胞からこっそりクローンを作っていたというわけ。
ここまでの出来事がなんと上巻のほんの3分の1に納まっている。まあこうしてあらすじだけ書くとものすごいトンデモ小説のように見えるのだが、ストーリーテリングがなかなか上手いので、それなりの説得力があり引きこまれてしまう。
この後、主人公はイスラエルに滞在中にテロリストに誘拐され、数年間捕虜として過ごす。だが不思議な成り行きで突然自由の身になり、家族とも再会する。だがその直後、<大惨事>と呼ばれる謎の大量死事件が発生し、妻と娘たちをいっぺんに失ってしまう。また、キリストのクローンを作った件の科学者もこの事件であっさり死んでしまう。この現象は世界中で起きており、原因ははっきりしない。さらに、イスラエルとロシアの関係が悪化し、ロシアはイスラエルを占領してしまう。だが、イスラエルレジスタンスは自国の軍事防衛網を掌握し、国内のロシア軍に対して中性子爆弾による攻撃を行う。当然ロシアも報復に出るのだが、発射された核弾頭はすべてロシア国内で爆発してしまい、逆にロシアに多大な被害を及ぼし、国としても急激に弱体化してしまう。これにより、国連は大規模な再編成を余儀なくされ……と、世界規模の大事件が次から次へと発生するのだが、その裏には何らかの形で「キリストのクローン」が関係していることが窺え、また予め定められたシナリオに従ってこれらの事件が出来しているような印象がある。
さてその「キリストのクローン」がどうなったかというと、親がわりの例の科学者を失ったために主人公に育てられるのだが、主人公が国連の仕事に関わっているため、彼もまた国連に深くかかわっていく。やがて彼の周囲では謎の勢力が暗躍したり、キリストと同様に荒野で過ごしたりするようになる。そして下巻の後半では、更なる災厄が人類を襲う。
と、科学、オカルト、ニューエイジ、政治、戦争、国際社会と、いろんな要素がてんこ盛りのハイテンション・エンターテインメント小説だった。この小説の存在を知ったときにはまず題名で惹かれたものの、その後これは三部作の一作目であるということを知り読むのを躊躇っていたが、結局読んでよかった。
はたして、<大惨事>やその他の大事件の原因、キリストのクローンの役割、彼は本当に異星人なのか、といった謎が解決されるのか。また解説によると二作目は更にとんでもないことになるそうなので、これは続きが楽しみだ。