アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム『死刑囚』

死刑囚 (RHブックス・プラス)

死刑囚 (RHブックス・プラス)

先入観抜きにとにかく読め、という内容のポストがtwitterで流れていたので読んでみたのだが。しかしちょっと期待しすぎた。
たまたま傷害罪で逮捕された被疑者は、かつてアメリカで死刑宣告を受けて服役していた死刑囚だった。したがって彼はそもそも存在するはずのない人物なのだ。というあらすじには惹かれるものが確かにある。特に冒頭の数ページは、彼の死刑囚ゆえの時間感覚、自らの死が分単位の正確さで定められているからこその時間への執着、というよりもむしろ時間のことしか考えられないという状況が、冷徹な筆致で描写される。ここでぐっと物語に引き込まれるが、その緊張感はあまり長く続かない。まあこれは物語の展開上、仕方のないことかもしれない。
その後、彼がどのようにして監獄から逃れることができたかが序々に明らかになるのだが、このくだりはまっとうすぎて逆に肩透かしを食らった感じ。彼が監獄を出て新たな住処とし、また再逮捕されたのは死刑が廃止されているスウェーデンなのだが、大国アメリカと小国スウェーデンの間でやりとりされる政治的手続きなども、少々ものたりない。
ただ、後半のやるせなさ、そしてラスト数十ページはなかなか良かった。このラストの効果を活かすにはある程度の尺の長さが必要だとは思うが、警部とその伴侶のエピソードが宙ぶらりんなのと、死刑に関する議論が紋切り型の感情論の域を出ていないのが残念だった。後者に関しては、個人レベルでももっと深みのある議論ができるのではないかと思うのだけれど。
決してつまらなかったわけではないのにそれほど楽しめなかったのは、半分は自分のせい。てっきりメタフィクションだと思い込んでしまって。twitterの某氏のいうとおり、先入観を完全に捨て去って読めばよかったのだけど、それって結構難しいよな。