ミスター・ノーバディ

おおこれは素晴らしい。おれ的にはものすごいハードSF映画。脚本はイーガンかチャンが書いたのかもしれない。
というくらいに、ビッグバン理論、バタフライ効果量子力学多世界解釈、狭義の人間原理超ひも理論、自意識とアイデンティティ、不老不死と、SF的テーマがてんこ盛り。さらに宇宙旅行と人工冬眠まで出てくる。それらのちょっとした解説も演出のひとつとして組み込まれているんだけど、ちゃんと科学的に正しい説明をしているところがいい。特に超ひも理論の説明では、バックにカラビ-ヤウ多様体のCGが用いられていたりする。こういうストーリーは小説ではいくつも読んだけれども、映画でそれこそ「一枚の画」として見せられるという経験は初めてかもしれない。
といっても、ストーリーは恋愛ものとか人生訓のようなものとして捉えることもできるし(そっちのほうが普通か)、ノンケの人でもじゅうぶん楽しめる。あらすじをざっと読んで興味を憶えたはいいが、2時間超もあるので中だるみしないだろうかと心配したが、まったくの杞憂であった。
ところでひとつだけ気になるのは、物語の背景として不老不死が実現した社会で主人公は最後の死者ということになっているのだけど、この設定は必要だったのか?もしかすると、個人の死という現象はそこを折り返し点として(彼または彼女が観測している)時空の様相を反転させるものだ、というようなことを言いたいのかな?この映画は過去の名作映画(『フォレスト・ガンプ』、『ブレードランナー』、たぶんもっとある)のパロディやオマージュを多用しているのだけど、このラストは『2001年宇宙の旅』なのかも。