津原泰水『バレエ・メカニック』

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

筒井康隆がオビの惹句を書いていたので気になって読んでみた。
最初の数ページを読んでみて納得。『虚人たち』や『虚航船団』などの「超虚構」を始めたころの筒井作品に、雰囲気や文体がそっくり。ただしこの文体は第一章だけで、第二章、第三章はまたそれぞれテイストが異なる。高校時代にそれら筒井作品を読みあさったおかげで第一章はたいへん楽しめたしむしろ読みやすいと感じたが、これは読者を選ぶだろうなあ。
小説や音楽の趣味がこの作者と共通する部分が多いのか、特に細部が楽しめた(オレはビートルズは聴かないけど)。前述の筒井康隆だけではなく、ギブスン、バラード、ガルシア・マルケスなどなど、SFに限らず多方面にわたる文学作品の断片を読み取ることができるが、これら断片のコラージュとこの小説のテーマとが互いに参照し合っているような、自分自身に無限に繰り込まれているような構造がとても刺激的。しかも技巧があちこちにちりばめられている。
この作品は、サイバーパンクとか、仮想空間から現実空間への越境、といった形容もできるかもしれないけれども、そういった既存の枠組みからは大きくはみ出しており、そこに文学の新たな、そして危うい可能性を感じた。