イスマイル・カダレ『夢宮殿』

夢宮殿 (創元ライブラリ)

夢宮殿 (創元ライブラリ)

舞台は(たぶん)19世紀後半のアルバニア。タイトルの<夢宮殿>とは、国民が見た夢を集めて管理し、クーデターや政変の芽を予め摘み取るために設立された架空の部署のこと。
序盤の、主人公がこの広大な迷宮のような<夢宮殿>に赴き、いかにもお役所仕事といった体でたらい回しにされるカフカ的不条理や、国民の夢までをも管理するというオーウェルディストピアの描写はとてもいい。この<夢宮殿>で、主人公が特に業績を上げているわけでもないのに、上司や周囲の顔色を窺いながら彼らが望んでいるであろうと思われる結果を出していくだけでとんとん拍子に出世していくというアイロニーも面白い。結末はちょっとあっけないかなと感じたけれども、なんとも(良い意味で)後味の悪い終わり方だった。
訳者あとがきや解説によると、この作品はアルバニアという特殊な政治的背景や歴史があればこそ、というものらしい。でもアルバニアなんてよく知らないものなー。この作品に限っては、先に解説を読んだほうがより楽しめたと思う。