メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

メルキオールの惨劇 (ハルキ・ホラー文庫)

なんじゃこりゃ。
あらすじを読む限りでは面白そうにみえるのだが、出だしの「アボド」という単語でもはや読む気力を半分がた失う(avocado)。
ごく一般的な単語に、ちょっとひねった(つもりらしい)ルビをふって一種の厭世観のようなものを表現しようとしているらしいのだが、そのたくらみはことごとく失敗している。たとえば、「知恵汁」という言葉には「ワイズ・スープ」というルビがふられるのだが、「良い考えの素」を意味する造語として「知恵汁」を採用するセンスの悪さはさておき、「ワイズ・スープ」では意味が通らない。スープは素ではなく、調理の結果だから。この手の小細工で独特の雰囲気を表現したいのであれば、まず論理的でなければならないと思う。横道にそれるが、『ニューロマンサー』で賛否両論を巻き起こした故・黒丸尚はやはりルビを多用した訳文を用いていたが、ちゃんと筋が通っていて、センスもよかった。
さて、題名にもなっているメルキオールは、今は白痴となってしまった元天才の呼称であった。その弟はバルタザールと呼ばれていることが後にわかるのだが、そうなるとカスパールの登場を期待するのが人情というもの。この兄弟の母親がそうなのか、それとも母親に殺されたという彼らの弟がカスパール・ハウザーよろしく幽閉されているのか、などと想像はふくらむのだが、結局カスパールという言葉も出てこない。別にいいんだけど、代々天才を産んできたというこの家系がなぜこの呼称を用いるのかという説明もなく、宙ぶらりんな感じ。やっぱりあのアニメから拝借したのね、という薄っぺらい印象しか残らない。
最終的には、バルタザールも発狂し、主人公が抱えている謎が明かされることもなく、尻すぼみに物語は終わる。
この作者は、『東京伝説』シリーズみたいに、元ネタがあってそれを膨らませる話を書いていたほうがいいんでは。長い話も苦手みたいだし。