星野之宣『ムーン・ロスト』

ムーン・ロスト (講談社漫画文庫)

ムーン・ロスト (講談社漫画文庫)

基礎となる科学理論はかなりトンデモで、ホーガンの『揺籃の星』に匹敵するかも。
地球に衝突しそうな小惑星を微小ブラックホールで粉々にしようとするところから始まるのだが、ブラックホールはいずれ蒸発するから地球に影響はない、というのはとても乱暴。ブラックホールが蒸発するにはそれなりに時間がかかるだろうし、蒸発に伴って大爆発するのではなかったっけ。
ひも理論を下敷きにしたらしい「膜理論」というのが登場するが、これはイーガンの『ディアスポラ』に出てくる理論に近い。かなりご都合主義的ではあるが。
政治色も強いけど、いくらなんでもアメリカはこんなに酷くはないだろう。月が失われたために地軸が傾いてしまい、北米大陸が今の北極に位置するようになったのだが、傾いたまま地軸を固定するのを阻止するために月の代替衛星であるエウロパを破壊しようとするのだ。それよりは、北米大陸を捨てて他の地域を侵略するほうがずっと容易いと思う。
いろいろと問題点はあるものの、今の漫画界でこういう正面きったSFを描ける(描かせてもらえる)漫画家は、星野之宣をおいて他にいないは確かだし、英国産に多い最近はやりのラノベ調擬似SFよりは、断然面白いといえる。