グレッグ・イーガン『順列都市』(再読)

順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

これは出てすぐに読んでいるのだけど、当時は私生活がニヒルだったせいか、面白かったということは憶えているんだけど、内容はすっかり忘れていた。もうすぐイーガンの新しい短編集がハヤカワから出るということもあって、読み直すことに。再読なので軽く流すつもりだったが、じっくり読んでしまった。
4つの互いに関連するエピソードのそれぞれをさらに細かくわけた短い章からなっているので、テンポよく読める(この構成自体が本書のテーマのアナロジーにもなっているのだが)。展開が単調な『万物理論』ではある種のもどかしさがあったが、そういったことは感じなかった。
テーマである「塵理論」はさすがに憶えていたけど、ディテールは見事に忘れていた。ニック・ケイヴ&バッド・シーズとかピクシーズといった実在のバンドが出てきて、ちょっとびっくり。SF界には音楽ネタを書く作家がどちらかというと少ないと思うのだけど、ディックのグレイトフル・デッドやギブスンのルー・リードなどと同じくらい、イーガン作品にはこれらオルタナなバンドが似合うと思う。ニック・ケイヴはオーストラリア人だし。
しかし、やっぱりイーガンって、ワイドスクリーン・バロックだよなあ。アクロバティックな塵理論はもちろんそうだし、シミュレーションとして存在しているエイリアン側の「人間原理」のせいで、彼らを生み出した人類側の基盤が成立できなくなってしまうなんていうアイディアは、ものすごくスリリングで、読んでいて背筋が寒くなるくらい。
そのエイリアンの宇宙論では無限というものが存在しないのだけど、これは短編「ルミナス」のテーマとちょっと似ているような気がする。どちらも、Brouwerの数学的直観主義に着想を得ているように思うのだが。