ステル・パヴロー『暗号解読』

暗号解読

暗号解読

これはすごいバカSFだ。何がバカって、作者がバカ。高等教育どころか、義務教育すらきちんと修めていないのではないかと思えるほどだ。
そのことはある程度わかっていて買ったのだが、実際読んでみるとそのバカさ加減は呆れるほど。この小説における科学、考古学、テクノロジーに関する記述は、ほとんど全てが大なり小なり誤謬を含んでいるといっても過言ではない。
太陽活動が活発化して地球の生命が絶滅の危機に瀕していたところに、南極大陸が実はアトランティス大陸であったことがわかる。しかもエジプト、マヤ、メソポタミアなどの主だった遺跡は、南極=アトランティスと連動して地球をそのような災厄から救う装置の一部だった。アトランティスはその装置や都市が全てバッキー・カーボンで作られていて、ユダヤの伝説にあるゴーレムに守られている。太陽活動がピークになったそのとき、アトランティス人が仕掛けておいた地球規模の安全装置が発動する。と、まるで「ムー」読者の妄想をナノテクなどの流行りのSFガジェットで肉付けしたような話。メインのプロットがそんな感じでトンデモ全開なうえに、過剰なほどの科学やテクノロジーについての説明は嘘だらけ。GPSはサーバ-クライアント型のネットワークシステムであり、他人がどこにいるかも知ることができる、バッキー・カーボンはダイヤモンドで熱力学の第二法則は適用されないし、ウイルスはC60の分子構造を模倣した生命体であり、太陽はパルサーだ、てな具合。
もちろん娯楽小説なのだからある程度の嘘や間違いはあってもいいのだが、たぶん作者自身にも嘘と真の区別がついていないと思う。これがホーガンなら、『揺籃の星』では『衝突する宇宙』ネタなどのトンデモ理論はちゃんとそれとわかるように書かれていて、さすが腐ってもホーガン。
そもそも、この小説はちっとも面白くない。浪費したり散財したりしている合間に読んでいたのでペースが遅かったのだが、RD-S600の取説のほうが、読んでいてよほど面白かった。実は途中まで、気がついた誤りはメモしながら読んでいたのだが、半分くらいまで読んだところでいい加減うんざりしてしまい、メモどころか完全な斜め読みでスルー。
タイトルについてだが、暗号というのは、南極や地球各所の遺跡に古代アトランティス人が残した文字のことを指す。この古代文字は、60個(C60にかけている)のアルファベットで構成されている。このアルファベットは60個の古代言語のそれぞれに対応しているし、それら古代言語の音の波形にもなっているということで、まったく理解不能。しかもこの「暗号解読」の謎解き部分は、500ページ近い本書の中の、10ページあるかないかだ。
アクションや戦闘シーンもあるものの、ちっとも面白くない。登場人物が多すぎるし書き分けが出来ておらず、明らかにキャラ萌えのためだけに存在するキャラも出てきたりする。作者は映画の脚本も書いていて(『ケミカル51』)、それなりに評価もされたようだが、バカでもわかる映画ならともかく、小説の読者をなめるな。だいたい、考古学者とその助手の大学生が、「ゾロアスターは、現在のイランの出身だ」「イスラム教徒だったんですか?」「いや、イスラム教ができるずっと前のことだ…」なんていうやりとりをするはずがないだろう。それとも、創造論を学校で教えてくれるような国では、大学生でもその程度だということか。
この作者には、もう小説を書かないでもらいたい。まったく、こんなものの版権をわざわざ買って日本語に訳す意味がわからないぞ>アスペクト
ここ十年で読んだ中では、ダントツで最も酷い本。