チャールズ・サイフェ『宇宙を復号する』

宇宙を復号する―量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号

宇宙を復号する―量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号

タイトルからはもっと違う内容を想像していたので、ちょっと物足りなかったか。
多くの通俗科学ノンフィクションとは異なり、暗号理論やエントロピー情報理論といった話題から始まり、相対論や量子力学に関する解説はその後に出てくる。情報理論がメインなので納得できる構成であり、新鮮な感じがする。
エントロピーとは何かということについても、確率的に最もあるうる状態になろうとする傾向だ、というような説明をしていて、これは面白かった。統計熱力学から量子力学に発展する過程や、そこに関わった科学者達のエピソードなどもていねいに描かれている。
前半はそんな感じでなかなかよかったのだけど、本書のメインである量子情報の解説になると、やや失速ぎみ。まあ、比較的新しい話題であり、専門家間の解釈もまだ定まっていないだろうから、仕方がない部分もあるが。
ただ、最後の結論が量子力学多世界解釈というのにはがっかり。多世界解釈はすでに普通に受け入れていたし、SFではもう当たり前な話なので、今さら感がぬぐえない。それに、なぜ多世界解釈なのかという説明なら、デイヴィッド・ドイチュのほうが過激で面白かった。
あと、翻訳があまりよろしくない。この翻訳者の場合はたいていそうだが、機械的に翻訳しているようなフシがある。また、翻訳ミスか誤植なのかはわからないが、全く逆の意味にとれてしまうような間違いも何ヶ所かあった。まともに校正をやっていないんじゃないか。