『幻の湖』

幻の湖 [DVD]

幻の湖 [DVD]

たろちゃんちで観賞。
幻想、SF、サスペンス、サイコスリラー、時代劇、文学、これら全ての要素を含んだ希有な映画。このようなものすごい映画の存在を全く知らなかった自分を不甲斐なく思った。
簡単に言ってしまえば、愛犬を殺されたトルコ嬢が逆上して犯人を追いつめるというだけのストーリー。
だがそこには数々の伏線やギミックが点在しており、むしろ大筋のストーリーなどもはやほとんど意味を持たない。先の展開が読めたと思っていても、こちらの小賢しい予想などを遥かに超越して、ストーリーはあさっての方向へ行ってしまう。かといって、破綻しまくっているということもなく、意味不明と思えたエピソードがちゃんと伏線として忘れたころに生きてくる(100%そうだというわけではないが)。
無駄に豪華な俳優たちの中で、最も異彩を放っているのが、これがデビュー作となる主演女優の存在。芝居であるとも素であるとも判断できない演技が、狂気を孕んだ目線とモノローグが、恐怖とも笑いともつかない感情と根源的な畏れを観るものに齎す。彼女は、デビュー作にして、ある種の到達点に達してしまった。
そしてラストの10分間では、これまでの物語がまさに一点に集約し、背筋も凍るようなどんでん返しとともにひきつるような大爆笑を誘う。ついに映画は地球の重力による束縛を逃れ、大気圏外にまで飛んでいってしまうのだ。いちトルコ嬢の日常だった話が、最終的には宇宙へと、そして太陽系が終焉する未来にまで飛翔してしまうとは(こう書くと私自身の正気が疑われてしまいそうだが、本当にそういう映画なのだから仕方がない)。
「カルト」とか「トンデモ」などといったレッテルを貼り、笑って済ませてしまうことは簡単ではあるが、この映画は他に類を見ないほど文学的であることもまた事実だ(映画として成功しているかどうかという瑣末事など、この際問題ではない)。この映画を観なければ、日本の文学や映画について語る資格などないのではないかと、半ば本気で思えるくらい。
監督が自ら執筆したという小説もあるそうなので、ぜひとも読んでみたい。宇宙パルサー。