山上たつひこ『人間共の神話』

未完である旨が帯に書いてあったので最初はスルーしてしまったが、このシリーズは1、2巻ともとても良かったので、読んでみることにした。初版部数が少なかったのか、あっという間に書店からなくなってしまったので、Amazonで購入。
その未完の表題作は、意外なことにSF。が、やはり当時のSF小説と比べてしまうと素朴ではある。ダリやゴヤを意識したような画もあるし、ストーリーも重厚なものになりそうなことを予感させる。ちょうどいいところで終わってしまっているが、もしちゃんと完結していたなら結構な大作になっていたかもしれないし、冒頭の異次元空間のくだりにどう落とし前をつけるつもりだったのか、戦後に雨後の筍のように興った新興宗教と行方不明になった原爆との関連が気になる。
他の収録作は、まあ単行本に入らなかったのもむべなるかなというところだが、「晦夜」は、山上版「ゲンセンカン主人」か「ねじ式」かという感じで、ちょっと面白い。主人公の顔が田村信のキャラクターっぽいなあと思ったが、これは話があべこべで、田村信山上たつひこのアシスタントを務めていたらしい。