SFマガジン11月号
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/09/25
- メディア: 雑誌
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この「グローリー」は、出だしがちょっとだけタイムリーな反物質ネタ。しかし、恒星間航行の方法にこんなスケールの小さなものを用いるとは、イーガンならでは。どれだけ小さいスケールで宇宙旅行が実現できるかという、理系の馬鹿話の元ネタを提供してくれているかのよう。だけどここに出てくる航法は既存の科学で説明可能なので、そうするとパンスペルミア説のようなフレッド・ホイルが提唱していた説も現実味を帯びてくる…かもしれない。
この出だしさえクリアしてしまえば、残りの部分はとてもわかりやすい宇宙SFだ。だけど、まだ恒星間航行をものしてない種族にファーストコンタクトを試みる理由というのが、前代未聞なのだ。これは一歩間違えば馬鹿SFになるところ。いや、全く同じ構成で文体と表現を変えるだけで、立派に馬鹿SF認定を受けることができるだろう。
全体的に非常に濃密にコンパクトにまとめられており、短編小説としての技巧も凝らされているし、かなりエンターテインメントを意識して書かれているように思える。これは今度出る短編集も期待できる。
その『TAP』は11月、『Teranesia』は来年中ごろ刊行予定とのこと。
他の作家の短編はあまり興味がないのでまだ読んでいないが、「最新宇宙SFブックガイド」という特集は読んでみた。
ここに挙がっている作品のうち3分の1くらいは読んでいると思うが、イーガンやシモンズに比べると、最近の「ニュースペースオペラ」はどうしても物足りなく感じてしまう。これはもしかすると、翻訳の質によるのかもしれない。同じシモンズでも『ザ・テラー』はあまり楽しめなかったが、これは明らかに翻訳が悪かった。また、無駄な副題をつけるなど、編集者側の問題もあるのかもしれないと思った。
あと、丸屋九兵衛という軽薄な輩は何者だ。ある作品が『風と木の詩』のようだとか、ブックガイドとはそのような主観的な思い込みを書くべきところではないだろう。一人称に「ワシ」を使うところといい、スタパ斉藤と同種の嫌らしさを感じる。
表紙のイラストも、レジに持っていくのに勇気が要る領域に近づいているし、かつての硬派はどこへ行ったんだ。