ゼラチンシルバーLOVE

こういうのは結構好きだ。
冒頭の約30分はセリフが全くない(音楽や背景音は聴こえる)というのは事前に知ってはいたが、仮に知らなかったとしても不自然には感じなかっただろう。映像のつなぎ方が良いので、説明的なセリフやエピソードがなくても雰囲気でわかるし。まあ、音楽をもう少し凝って欲しかったとか、細かいところでツメが甘い部分があるかな、などと思わないでもないが。宮沢りえが最初に食べるゆで卵は固ゆでのように見えたけど、それ以降は半熟。いずれにしても、ゆで時間が12分30秒というのは長すぎる、とか。
永瀬正敏が演じる役は、ハードボイルド風な外見のわりには言葉遣いが丁寧で、宮沢りえが演じる女に惚れているので話しかけられるとキョドったりもする、どちらかというと情けない男。それでもあまり違和感がなかったのは、『姑獲鳥の夏』の関口役を見ていたからか。女が食べていたゆで卵の殻をひたすら写真に撮り続けるという、フェティシズムに溢れた幻想的なシーンは良かった。
しかしこの男、デジタルじゃないフィルムのカメラを持ち歩いて写真を撮っているわりには、盗撮した動画の編集をBDレコーダと液晶テレビという組み合わせでしたり、その動画を見ながら自慰行為をしたりするというのは、人物造形としてちぐはぐな印象がある。そういう一貫性のないヘタレ男だからこそ、宮沢りえ演じる女には見向きもされなかったということが言えるのかもしれないが。
前述のようにセリフは少ないのだけれど、セリフのセンスという意味で脚本は残念な感じ。言葉の選び方が下手で、映像表現とかみ合っていなかった。