『オカルト』

『オカルト』という題名のオカルト映画。ATTICでゑびさんと一緒に観賞したが、観客は他にもう1人いるだけだった。
心霊現象やUFO、オーパーツといったオカルトにつきもののアイテムには事欠かないが、恐怖や畏怖といった感情はさっぱり感じなかった。どころか、それらのアイテムにまつわるエピソードのほとんどが投げっぱなしで根拠もオチもなく、かといってそれでフラストレーションを感じたかというと決してそんなことはない。むしろ、予想もしなかった斜め上の面白さだった。
無差別通り魔殺人事件の被害者が幽霊ではなくはっきりとした実体を伴って現れるという怪異、オーパーツに記された神代文字や体に顕れる聖痕めいたシンボルという伝奇的なアイテムなど、象徴的なエピソードにあふれてはいるが、それらにはいずれも合理的な説明はなされない。もちろん合理的ではないからこそ怪異なわけだけど。途中で「ヒルコ」に関する言及があって、すわ『妖怪ハンター』かと思ったものの、ヒルコ説はそれっきり立ち消え。そういった超越的な存在のような一種のデウス・エクス・マキナに下駄を預けずに、わからないものをわからないまま放ったらかすという方針が、ここでは成功している。「オカルト」とはそもそも「隠されたもの」を意味する言葉であるということを思い出せば、この映画はまさしくオカルト映画であるとしか言い様がない。
中盤以降は、派遣でかろうじて食いつないでるネットカフェ難民のフリーターが主役だが、この人物造形が秀逸。酒が入ると急に人にあたり始めたり、小金が手に入ると気が大きくなって人に焼き肉を奢ったり、好意的な人は自分の味方だと信じて秘密を打ち明けるという、自分本位で思い込みの強い性格。この15年くらいに日本で起きた陰惨な事件の中心にいた人物達をステレオタイプ化したようなキャラクターだ。
最後の最後に、まさかそこまで描写するの?という映像があって、これがまたウルトラQか!というようなショボい映像なんだけど、それも含めてこの怪作の魅力だ。