セバスチャン・フィツェック『前世療法』

前世療法

前世療法

敏腕弁護士である主人公は、前世で殺人を犯したと主張する少年から依頼を受ける。もちろん主人公は前世など一笑に付すのだが、少年が言ったとおりの場所で死体を発見してしまい、しかも被害者はその少年が生まれる前に殺されていたということがわかる。さらに主人公自身のトラウマを深くえぐるような出来事があり、それもまた前世や生まれ変わりといった現象と無関係ではないかもしれない……。
という導入はとても面白くて、読んでいてゾクゾクした。ただ、中盤からはベルリンの裏社会の描写が続き、前半のサイコな雰囲気が一旦リセットされてテンションがやや下がってしまった。まあ、サスペンスという意味での緊張感はあるのだけれど、緊張感の種類が違うというか、それまでのオカルト的な展開が背後に隠れてしまう。この作者だから論理的な結末が用意されているであろうことはほぼ間違いないわけで、そこに向けてこの少年が主張するような前世や輪廻という怪奇をどう膨らませていくのかと期待していただけに、この展開は残念だった。
やはり結末では全ての謎に説明がつくのだが、ちょっと物足りない感じ。もうひとつふたつ伏線があれば、あっと驚いて読み終えることができたんじゃないかな。『治療島』もこの『前世療法』も、例えるなら京極夏彦の初期の妖怪シリーズのようなもので、種明かしのみに着目すれば身も蓋もない説明で終ってしまう話だ。けれど、そこに至る物語の中で、ちょっとしたキーワードやエピソードがあるだけで読後感ががらりと変わってしまう。この『前世療法』では、そのヒネリが少し足りなかったように思う。
と、なんのかんの言っても翻訳されているこの作者の本は全部読んだし、次の作品も期待している。