楳図かずお『わたしは真悟』5,6

何故だろう、このあたりのエピソードはあまり記憶に残ってない。広げた風呂敷や伏線を回収しきれていないので、消化不良に感じたのかもしれない。
ただ、アームだけの存在になってエネルギーも切れてしまった真悟が、悟が歩くときの振動でメッセージの最後の一画を書き上げる、というシーンは好きだ。あと、まりんの体の中で、大人になるまでのカウントが無情にも鳴り続けるというのも、エロチックかつ切なくていい。『幸福の王子』よろしく自らの部品や記憶を失うかわりに、老婆の健康を取り戻したり、難病(?)の少女を五体満足な体にしたりするというのも感動的。
前述の伏線、特に国際社会から孤立している日本と世界中で起きる紛争、真悟に仕込まれたブラックボックス、真悟が作った部品の「毒」などは、いく通りにも解釈できる。『漂流教室』の前日譚という指摘ももっともだし、『14歳』につながっていくという考えもありだろう。だが、この作品はこれでちゃんと完結している。子供はいつかは大人にならなければならず、大人になってしまったら、究極の子供である真悟とはコミットできないのだ。だからこれは、大きな喪失の物語なのである。それは、これまでの巻の裏表紙が凝りに凝った多色擦りだったのが、最終巻に限っては何も印刷されていない透明なビニールである、ということにも現われているように思う。