ナンシー・クレス『アードマン連結体』

アードマン連結体 (ハヤカワ文庫SF)

アードマン連結体 (ハヤカワ文庫SF)

たまには出来立てホヤホヤのを、と思って読んでみた。けど、なんだかなあ。
最初の2篇「ナノテクが町にやってきた」と「オレンジの値段」が、紋切り型で薄っぺらい文明批判で、出鼻をくじかれる。
表題作は長いわりに早々にオチがわかってしまうのと、主人公が物理学者という設定ではあるものの、考え方が物理学者っぽくないというところが引っ掛かる。いや、親しくつきあっている物理学者などいないから、実際のところはよくわからんけど。しかし少なくとも、この主人公の思考は論理的じゃないし、飛躍が多い。主人公の気難しく辛辣なところばかりが強調されていて、これも世間一般が想像する物理学者の紋切り型のように見えてしまう。量子力学観測問題にも言及しているけど、描写に少しあやしいところがあって、作者はちゃんと理解しているのだろうか。技術者でもあり物理学者でもあり、寡作ではあるがいくつかの素晴らしいハードSFを書いた故・チャールズ・シェフィールドの奥さんにしては、やや物足りない。
またこの表題作では、老人たちがしばしば同時にショック状態に陥るという事件が起きるのだが、その現象を指して物理学者が「エネルギーの奔流」などという表現をするだろうか。さらに主人公がその現象を説明する際に、

「(略)きのう異変が起きたんだ。二度も」ヘンリーは”異変”ということばが気に入った。警察の調書のように、客観的かつ具体的だ。

という表現をするのだけれど、むしろこの場合の”異変”ということばは、主観的かつ抽象的だろう。もしかしてオレ誤読しているのかなあ?これはアイロニーをこめたユーモアだとか?
続く「初飛行」は、完全に予想どおりの展開でヒネリがない。オチはちょっと面白いけど、これも想定の範囲内。他にも短編がいくつかあるが、どれも微妙。一番SFぽくない「マリゴールド・アウトレット」が最も面白かった。
という内容だからかどうかはわからないが、解説もなんだか奥歯にものが挟まったような感じ。要するに、箸にも棒にもかからない薄味の短編集だから非SFファンでも読みやすいかもね、ということを言っているだけのように思うのだが。
気になったのが、「齢の泉」の評。「さわやかな読後感だ」と断言しているけど、これって逆なのでは。かつての恋人と添い遂げられなかった主人公が、その恋人と文字通り「同体」にはなれるけど、それは年月を経て財力でもって無理矢理手に入れた代償行為でしかないという、むしろほろ苦い終わり方だと思ったのだけど。もしかしてオレ誤読しているのかなあ?でもどうせ半年も経てばこんなストーリーはすっかり忘れているだろうから、まあいいか。
それにしても、カバー絵はまあまあかっこいいけれど、内容とは全く関係ないぞ。