つりたくにこ『フライト』

フライト つりたくにこ作品集

フライト つりたくにこ作品集

つりたくにこの名前を知ったのは、彼女が病死した直後、追悼文が載った「ガロ」誌だったと思う。誰かの追悼文に、ストーンズの「黒くぬれ」(だったか?)に合わせて体を揺らしていたのが印象的だった、というくだりがあったという記憶がある。その後で「六の宮姫子の悲劇」を読んで、これは名作だと思った。当時、「ガロ」を古本屋で見つけては手当たり次第に買って読んでいたのだが、他のつりたくにこ作品は記憶に残ってない。ということで、作者の名前と代表作だけが記憶にしっかりと焼きついているものの、おれの中ではずっと謎の作家なのだった。そんなおりにたまたまこの作品集が出たのだけど、帯にもあるように、ゲゲゲ効果なんだろうか。
で、主な作品群を概ね時系列に沿って読めたわけだけど、やはり「六の宮姫子の悲劇」が出色の出来であり、他の作品は今読むとかなり辛いものがある。30〜40年も前に描かれたものだということを勘案しても、漫画としての完成度は低いと思う。ただし、SF的なテーマが多い初期のものから、「ガロ」時代に水木しげるつげ義春・忠男から影響を受けたであろうことが明瞭に窺えるもの、難病のせいかもしれないが描線がシンプルになり、テーマもシュールだったり童話的になっていく後期の作品群、という変遷はまあ、興味深いものではあった。
作者が描きたいものを自由に描けるという、「ガロ」ならではの漫画だ。