エンター・ザ・ボイド

名づけて、ネクロノミコン的輪廻転生サイバーパンクドラッグSF映画
始めのほうは、かなりよくできたSF小説をそのまま文字どおり一人称で映像化したという感じで、かなりグッときた。完全に主人公の目線からの映像なので、主人公の動きに完全に同期しているし、まばたきによって定期的に映像が一瞬暗くなったりする。まばたきが映像で表現されるというのは、貞子のビデオみたいだ。さらに、主人公が鏡に向かって自身の顔をためつすがめつするシーンがあるのだが、このとき彼の手や腕によって視野が部分的に隠れる。もちろんカメラは写り込んでいないのだが、これはどうやって撮ったのだろう。もしかすると、実際に撮影するときには鏡ではなくてただの壁に開いた空間の向こうに主人公がいて、彼の手の動きに合わせてカメラの視野を遮るという、カメラ側に位置する俳優がもう一人いたのかもしれない。1カットが妙に長く、空中から俯瞰する視点にシームレスに繋がったりして、これにも感心してしまった。
主人公が死の間際に見るパノラマ視現象のくだりは、良い意味で小説的だった。また、主人公が他人の意識に入り込んでしまうところなどは、スプロール三部作に出てくる「擬験」を意識していそう。そういった要素が、ディックやギブスンのSF小説を思わせる。
しかしいかんせん2時間超は長すぎた。オチはわかっているのに、後半ではあるシーンがかなりしつこく繰り返され、しかもそのシーンではカメラが空中をグリグリ動くので、3D酔いしてしまった。
個人的にはこの映像は好みだったし、前述のように小説的な作りが非常に面白かった。これで短い尺にすっきりとまとめてくれれば、もう言うことなしだったんだが。あと、音楽をDaft Punkの片方がやっているわりには、地味な感じだった。