フェリクス・J・パルマ『時の地図』

時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

これはもう、文句のつけようのない一級品のエンターテインメント小説だ。
19世紀末のロンドンを舞台に、H・G・ウェルズ切り裂きジャックエレファント・マンヘンリー・ジェイムズ、ブラム・ストーカーといった実在の人物が活躍する。時間テーマ(「SF」と言っていいかどうかは判断が分かれるところだけど)と親和性の高い、ロマンスもたっぷり。そして冒険があり、血なまぐさい事件があり、陰謀があり、これらが絢爛たる文章で濃密に綴られる。
そして物語の構造も複雑で、三部からなるエピソードはゆるいつながりがあるだけかと思いきや、それぞれに施された仕掛けが最後の最後に壮大な「地図」を描くようになっているのだ。作者の仕掛けはそれだけにとどまらず、時間と文学とが互いに繰り込むというメタ的な蜜月関係のヴィジョンをわりとあっけらかんと提示してくれる。
SFとして読んでもよし、ミステリとして読んでもよし、けれどもそれらのジャンルの枠組みには決して収まりきらない、無限の深みをもつ素晴らしい小説だ。