サラ・ウォーターズ『エアーズ家の没落』

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

エアーズ家の没落上 (創元推理文庫)

これはいい。とてもいい。
このエアーズ家に来たばかりのまだ少女のメイドが「この屋敷には何かがいる」といっておびえるところから話が始まる。やがて開かれたパーティーである不幸な事件が起きる。それからというもの、ちょっとした不思議な現象が起きたかと思えば、それがきっかけとなって大きな事件が次々と起きたり、家族のひとりは精神に異常をきたしたりする。
ここで、原題が『THE LITTLE STRANGER』であることを考えると、日本には「座敷童」という怪異があるので先が読めたような気になってしまう。おそらく、西洋にも同じような怪異があるのだろう。
だが、この小説はそんな単純な話ではない。これらの現象の原因は?怪異として超常的な説明で終わってしまうのか、それとも合理的な説明がつくのか?それぞれの事件の犯人は?こういった疑問への回答が得られそうになると、それを否定するような事件が起きたりして、読者はとことん揺さぶられる。幼くして死んだこの家の長女、ポルターガイスト現象への言及、主人公の語り口……これらの要素が重なり合って、ある種のホログラム的なパノラマを描きだす。もはや幽霊屋敷と呼んでもいいようなエアーズ家の館や、時代に取り残された没落貴族の生活などの描写も見事。
他にもいろいろと書きたいことはあるのだけれど、何を書いてもネタバレになってしまいそう。とにかく、この小説はどんな細部も見逃さずにちゃんと読まなきゃダメ。