トスカーナの贋作

軽い気持ちで観に行ったら、とても難しい映画だった。今まで観た映画の中でも五本の指に入るくらいの難しさ。
イタリアのトスカーナには「本物と認められた贋作」の絵画があるそうだ。というのは、200年もの間本物だと思われていたが、つい50年ほど前に贋作であることが証明されて、その作成者までもが明らかになっているという。
あるイギリス人作家が、芸術作品のオリジナリティについて書いた自著の講演をしにイタリアを訪れる。そこで、フランス出身で今はイタリアに住んでいる女性と知り合うのだが、2人がたまたま訪れたカフェで夫婦と間違えられたところから、彼ら自身も夫婦の役割を演じ始める。ところがこの「演技」が、細部に至るまでいかにも「本物」らしく出来ているので、どこまでが事実でどこからが虚構なのかわからなくなる。さらに、英語、フランス語、イタリア語と3種類の言語が使い分けられていて、そこにはゆるい法則性もあるようだ。
本物と偽物の関係が、芸術作品においても男女関係においても対比され再帰的に繰り込まれて、地味なストーリーだが、ある意味マジックリアリズム的で複雑な絵を描く。