J・P・ホーガン『時間泥棒』

時間泥棒 (創元SF文庫)

時間泥棒 (創元SF文庫)

イーガンを読んだ直後だからか、ホーガンを読んでいるという気がしなくて、まるでP・K・ディックの小説を読んでるような感覚だった。というか、これはホーガンの小説にしては珍しい雰囲気。ページ数も少ないし。
題名のとおり時間が何者かによって奪われているという話なのだが、それが及ぼす影響が、時計の遅れと赤方偏移くらいしかない、というのがいつものホーガンらしくない。ディックの『逆まわりの世界』では時間が逆転しても登場人物たちは普通に生活していて、物理過程が全て逆転しているわけではない。主にマクロな事象の因果律が逆転しているだけで、まあ物語に都合のいいように時間が逆転しているという設定だった。これと同じテイストをこの『時間泥棒』にも感じたので、ディックぽいなあと感じたのだろう。
といっても、別に貶しているわけではなく、これはこれでとても面白い小説だった。時間が盗まれるという現象への対処を求められるのが何故か警察で、しかも主人公である一介の刑事が問題を丸投げされるという不条理とアイロニー。彼には当然心当たりなどあろうはずもなく、科学者や哲学者、果てはいかさま心霊術士にまで頼らざるを得ないという状況。しかし最後には全て解決するという爽快さとホーガンの剛腕ぶりが、少なめのページ数に濃縮された形で堪能できるのだ。