サラ・ウォーターズ『夜愁』

夜愁〈上〉 (創元推理文庫)

夜愁〈上〉 (創元推理文庫)

夜愁〈下〉 (創元推理文庫)

夜愁〈下〉 (創元推理文庫)

これで邦訳されているサラ・ウォーターズの本は全て読んだことになる。で、この作者の他の小説に比べると、かなり地味だなあと思いながら読んでいた。しかし若島正の解説を読んで、この地味さには納得。
それにしても、こんなに奇妙な読後感の小説は初めてだ。最後のシーンはこの上なく美しい。しかし、それゆえに哀しさと言いようのない閉塞感がつのる。というのも、この小説は時系列が逆転して語られていて、読者は結末を予め知っているからだ。冒頭に仕掛けられた謎や思わせぶりな表現、登場人物たちの時に突飛とも思える言動なども、実に効果的。
サラ・ウォーターズの小説の邦題は妙に意訳されていることが多くて不満に思っていたが(特に『荊の城』)、この邦題は原題("The Night Watch")に近いし、掛け詞になっているところや小説の雰囲気にもぴったり。カバーのデザインもいい。
ちょっとググってみたところ、この小説はBBCによってドラマ化されているようだ。これはぜひ観てみたい。