山岸凉子『日出処の天子』4, 5

このあたりのストーリー展開は漫画家としてまさに脂が乗りきったというか、本当に素晴らしい。厩戸王子が「雨乞い」をして雨を降らせるときのシュールリアリスティックな表現、毛人と布都姫の仲を裂くための謀略など。
また、細かいところの表現では、自殺未遂して伏せている刀自古に毛人が手を重ねる場面の3コマ。ここは2人の手しか描かれていないけれども、絵だけでとても饒舌に2人の心の動きを表現している。額田部女王から授かった「鳴らない笛」を吹くシーンも好きだなあ。
あと今回気がついたのは、大王とその腰巾着の策略によって穴穂部間人姫と強引に結婚させられた田目王子が宮に遊びに来たときに、厩戸王子の弟達がコマ回しをして遊んでいる場面。これは来目王子がまだ幼くて豊日大王が存命だった頃、来目王子は女性一般を指して「コマ回しもできなくてつまらない」という趣旨の発言をしていたのだが、今回は義父と親しく話している母に対して「父上を独り占めしないでください」と大人びた感じで茶化している。ここで、説明的なセリフなしに年月の経過と来目王子の成長ぶりがわかるようになっている。またこれに対して田目王子が「おおこれは上手になられた」と返すのだが、このセリフは、コマ回しが上手くなったことと大人の会話ができるようになったという、二重の意味を掛けているのだろう。って、今更ですが。
今回の配本の中では、5巻の後半、「そなたの妹はもらうぞ」の回が特にいい。額田部女王と大姫の親娘それぞれの逡巡から始まって、朝廷での大王の無能ぶりと女性への執着、毛人が刀自古の件で苦悩する一方で厩戸王子とはとてもいい雰囲気になるものの、最後に大きな落とし穴が待っているという、まさに序・破・急の見本のよう。これが月刊誌に連載されていたある一話だなんて、今の時代では考えられないような濃密な回だった。