スコット・ウエスターフェルド『ベヒモス クラーケンと潜水艦』

ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ベヒモス―クラーケンと潜水艦 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

三部作の一作目が面白すぎると、二作目は中だるみするんじゃないかとかいつも心配してしまうのだけれど、これは一作目と同じくらい面白かった。いきなり「テスラ・キャノン」だものなあ。もちろん架空の兵器だけれども、クランカー陣営というかドイツ軍の兵器にいかにもありそう。
今回はイスタンブールが主な舞台。ヨーロッパとアジアとイスラムの文化が混在した街というイメージがあるが、まさにそのような描写がなされている。街中で交わされる言語の種類も多数あるし、オスマン帝国はいちおうクランカー陣営ということにはなっているけれどもそのメカは実用性一辺倒ではなく、象など実在の動物をかたどったものになっているというのが面白い。
この混沌とした街で、アレックとデリンの二人の主人公たちは、オスマン帝国の民主革命に巻き込まれてしまう。革命軍のリーダーとその娘リリトや、アメリカの新聞記者など新しい登場人物たちも現れてますます混沌の度合いが高まるが、ストーリーの芯がしっかりしているので物語自体がゆらぐことはない。むしろ、この街も人も政況もごった煮状態という中で、アレック、デリン、リリトという少年少女たちの一途なひたむきさが引き立っている。
ストーリーそのものは前作からあまり進展しないものの、二人の主人公たちの冒険は前作よりもさらに派手になり、甘酸っぱいロマンスの萌芽も見えてきた。アレックは自らが立ち向かわなければならない運命に目覚めたし、これは次作への期待がいやでも高まろうというもの。