北野勇作『かめくん』

かめくん (河出文庫)

かめくん (河出文庫)

これはいい。とてもいい。
模造亀(レプリカメ)であるかめくんの日常の描写から、この作品世界の背景が徐々にわかってくる。全体的に昭和な感じの、ほのぼのとした雰囲気だけれども、実は結構ハードなSF設定が背景にあることが窺えるし、それは確かにグレッグ・イーガンにも通じるところがある。
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』や『2001年宇宙の旅』、特撮映画などへの言及やパロディがあちこちにあって、読んでいてとても楽しい。けれども、どこか物悲しさを感じさせるトーンが通底していて、静かなラストで結晶する。