フェリクス・J・パルマ『宙の地図』

宙の地図 (上) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (上) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (下) (ハヤカワ文庫NV)

宙の地図 (下) (ハヤカワ文庫NV)

前作『時の地図』の続編。これは続編としてはかなりまっとうというか、設定やキャラクターはそのままに、全く新しい世界を築いている。もちろん、前作を読んでいなくてもちゃんと楽しめるようになっている。
前作が『タイム・マシン』に絡めた物語だったのに対して、今作は『宇宙戦争』。といってもオリジナルの小説のようにいきなり火星人の円筒形ロケットが地球にやってくるわけではなく、いわゆる円盤型のUFOが南極大陸に墜落するところから始まる。それをたまたま目撃したのが、地球空洞説を信じて南極の「穴」を調査しにきた探検隊の隊員たち。現れた火星人もタコ型じゃなくて、もろに『遊星からの物体X』で、触れた者に変身する能力も持っている。
この南極の描写で、「おや?」と引っかかるところがあるのだが、これが伏線というか、この小説のある意味ネタばれにもなっている。冒頭で、この小説におけるウエルズが発表した『宇宙戦争』に関する会話があるのだが、これも我々が知っている小説とは細部が異なっており、明らかにジョージ・パルの映画の方の描写になっている。だからわりと早い段階でこの小説の仕掛けは想像がついてしまうのだけれども、もちろんそれも作者の意図したことであって、その上でこの物語を楽しんでください、というメッセージなのだろう。
その後は、前作で登場した人物が思わぬ形で再登場したり、新しい魅力的な人物たちも登場して親子三代にわたるエピソードがあったりして、どのエピソードも面白くてグイグイ読ませる。訳者あとがきによると、当時実際にあった出来事も交えているらしい。そしてついにロンドンに「火星人」が登場するのだが……ここからの展開は、本家『宇宙戦争』を彷彿とさせる冒険と逃亡の物語になっている。かなりグロテスクな描写もあるが、なんとなくギーガーをイメージさせる。
それにしても、冒頭の仕掛けといい、後半の展開といい、かなり反則技に近い。だが、この作者の筆力でもって強引に揺さぶられというのも快感だったし、ストーリーテリングの上手さもあって、とにかく納得させられてしまう。いやあ、前作に劣らず面白かった。
さらに続編の構想があるらしく、次は『透明人間』がモチーフになるらしい。こうなったらもう、『モロー博士の島』や『月世界最初の人間』まで行っちゃってほしい。