籠の中の乙女

ちょっとだけあらすじを見てみたところ、タイトルから連想される内容とは全然違うようで、怪しげな匂いがプンプンと。で、実際かなりあやうい映画だった。
何のかは不明だがとある工場のお偉方らしい父親は、妻と子供たち(といってもかなり歳がいっている、姉妹と息子)を屋敷の敷地内に閉じ込め、外界との接触を一切断たせている。子供たちに施す教育も異常で、単語をまったく違う意味に置き換えて教えたりしている。だから、子供たちは屋敷の外のことを全く知らないし、テレビ番組や電話の存在も知らない。必然的に、そんな自分たちを異常だとも思っていない。この家にテレビはあるのだが、もっぱら家庭内で撮影したビデオを再生するためにのみ存在しているらしい。さらに異常なことに、息子の性欲処理のためなのか、女を金で買って家に連れてきてあてがったりもする。この女性が、意図せずして外界の情報を彼らにもたらし、平穏だったこの家族の様相が少しずつ変化していく。
他にも、息子は一人しかいないのに父親は「兄弟たち」という表現を用いたり、母親がいきなり「双子をつくりましょう」と言い始めたりして、常軌を逸した謎が積み重なっていく。また、家庭内のゲームのようなものがあるらしく、このゲームで得点を稼ぐとシールがもらえるのだが、子供たちはかなり本気でシール集めに取り組んでいる。
結局それらの謎は一切明かされることはないのだが、それがまた良い。決して派手な演出があるわけではないのだけれども、それだけにこの家族の根底に潜む狂気がひしひしと伝わってくる。絶対的な権力者として肥大化した家父長を批判的にカリカチュアライズした物語と見ることもできるが、決してそれだけにとどまらない、不穏で怖い映画だった。こういうのは大好き。