『厭な物語』

厭な物語 (文春文庫)

厭な物語 (文春文庫)

何が厭って、「イヤミス」という言い方が一番厭だ。まあそれはさておき。
まずこのアンソロジーのタイトルに惹かれて目次を見てみたら、知らない作家に交じってジョー・R・ランズデール、ウラジミール・ソローキン、カフカまである。とどめはフレドリック・ブラウン。ということで即購入。
最初の二編、クリスティーハイスミスはそれほど「厭な物語」という感じではなかったが、読み進めるにつれ徐々に厭度が上がってくる。これは編集が上手い。
時代的にも、20世紀前半に書かれたものもあれば21世紀に入ってから書かれたものもあり、バラバラ。だけど昔の作品でも、古さは感じない。むしろ、モーリス・ルヴェル「フェリシテ」などは、格調高い訳文が素晴らしい。子供の頃に読んでた翻訳文学はこんな雰囲気だったなあ。
ランズデールはやはり面白い。バカを書かせたら、この作者の右に出る者はそういない。シャーリー・ジャクスン「くじ」は、知らない作家だったけれども収穫だった。ローレンス・ブロック「言えないわけ」は、途中で結末が見えた気になってしまったが、さらにヒネリがあって、しかもそのヒネった部分を素手で無造作に千切ったという感じ。ああ厭だ。
このアンソロジーは構成がちょっと変わっていて、解説の後にもう一編ある。それがフレドリック・ブラウンなのだけど、ある意味日野日出志的な厭さ。
世の中にはまだまだ厭な話があるはずなので、続編を希望。